「……お願い、いまだけは私を――私だけを推してくれませんか」
静まり返る放課後の教室。窓から差し込む西日が、彼女の頬に光の輪郭を描く。その言葉には、誇りでも欲望でもなく、“切なさ”だけが宿っていた。
『負けヒロインが多すぎる！』（著：雨森たきび）は、ラブコメ好きなら誰もが避けて通れない“あのヒロインたち”に真正面から向き合った傑作青春群像劇。
主役でもなく、サブでもない。名前こそ覚えられていても、報われることのない“負けヒロイン”。だが本作では、そんな彼女たちこそが、物語の核心へと引き上げられる。
今巻で描かれるのは、生徒会選挙を巡る激動の関係図。天愛星さん――美貌と気品を備えた少女が、まさかの推薦人に“文芸部の地味男子”である主人公を指名するところから始まる。無理だ、関わりたくない、と思っても、彼女のまっすぐな言葉と行動が心の壁を崩していく。
「私のために、動いてくれたら嬉しい」
そんな彼女の表情は、勝利の自信ではなく、まるで“負けた記憶”を重ねたかのような哀しみを湛えていた。
この作品の素晴らしさは、いわゆる“推し負け系”ヒロインたちが、ただ悲劇的で終わらないという点にある。それぞれが確かに主人公と“何か”を積み重ねており、互いの成長を支え合っているのだ。
- 甘えベタで不器用な幼なじみ
- 何も言わずに去っていく風紀委員
- 自分の“本音”を隠す演劇部の天才少女
彼女たちの“敗北”は、恋においてかもしれない。でも、心の中には確実に“残る”。読者の記憶に“刻まれる”。だからこそ尊い。
選挙戦という舞台装置も見事で、各キャラが表舞台に立つために、言葉を磨き、行動を選び、嘘と本音の間で揺れ動く様は、どこか青春の“リアル”すら感じさせる。
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報われない恋。
だけど、忘れられない恋。
そんな“負けヒロイン”の魅力が、ここには詰まっている。
彼女たちは、脇役なんかじゃない。
――読めば分かる。あなたも、きっと誰か一人を“推したくなる”。
